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2008年07月25日

IPTV(IPテレビ)は、地デジ移行の裏返し(3)

 私どもの教室で行っている「IPテレビ」についての講義(?)を、このブログ上でも再現しようという発想で始まったシリーズの最終回(3回目)です。前回(2回目)は「テレビでインターネットを見る」、すなわち「IPテレビ」について、「テレビでインターネットを見る」とはどういうことか、現状のサービスを紹介しながらご説明いたしました。
 
 今回は、「IPテレビ」サービスの一機能である「オン・デマンド」について、従来からの「放送」との対比においてご説明します。また、今後の「IPテレビ」普及の可能性について、国策としての「地デジ」普及キャンペーンと比較しながら、ご説明したいと思います。
 
 
7.「放送」と「オン・デマンド」の違い
 
 前回ご紹介した主な「IPテレビ」サービス事業者のうち、3社のサービス・メニューには共通点があります(下表参照)。各社、サービス名称こそ違いますが、3社とも選択可能なサービスとして“放送”と“オン・デマンド”が含まれています。
主な「IPTVサービス」事業者3社のサービス・メニュー

 “放送”とは、予め決められた時間に、予め決められたチャンネルで、予め決められた番組が放送されるものです。従来からのテレビやラジオの放送は、この方式です。
 一方“オン・デマンド”とは、どの番組を、いつ(から)見るかは、視聴者のリモコン操作しだいで決まり、(視聴者がリモコンの)ボタンを押した瞬間(注1)から番組がスタートします。
(注1) 2008年10月14日 修正
 
 
 ここで架空のエピソードを一つ。「某社に勤めるOL・Aさんは、水曜日の夜10時から8チャンネルで放送されているドラマを、毎週欠かさず見ています。今日はその最終回、急な残業が長引き、ようやく退社できたのが9時半過ぎ。家に着くのは10時半頃になってしまい、このまま急いで帰っても残り半分だけしか見れません。さて、どうしたものか。」
 ここでAさんが、急いで帰宅する以外に、採り得る方法として、「途中でどこかの飲食店に入り、食事を注文する時に、チャンネルを『8』に変えて欲しいと店の人にお願いする。」というのはいかがでしょうか。しかし、「そういう店が簡単に見つかるのか、運よく見つかったとして、初めての店で『チャンネルを変えて』と言えるほど厚顔無恥になれるか」というハードルがあります。 (注) 世の中には携帯電話から録画予約できるレコーダーというものも市販されているそうですから、上記のような下手な作り話がエピソードになることはないのかも知れません。
 
 上記は、“放送”が視聴者ではなく、放送局に主導権があることを強調するために用意したエピソードです。それに対して“オン・デマンド”は、番組をビデオに録画しておいて、後で見るのと似ています。ビデオは事前に録画予約しておく必要がありますが、“オン・デマンド”の場合は、録画予約すら必要ありません(但し、見たい番組が“オン・デマンド”の対象に入っているという前提付き)。
 
 
 ある番組をどうしても見たかったら、従来であれば放送局側が決めた日時にテレビの前にきちんと正座している、そんなこと位しか視聴者側に選択肢はありませんでした。ところが、“オン・デマンド”による視聴が一般的になった暁には、番組を見る(開始時刻)のは帰宅してすぐでもよいし、夕食やお風呂の後にするかどうかは一人一人の気分しだいです。場合によっては気が変わってその番組を見ること自体をやめてしまうかも知れません。
 
 冒頭で述べたことの繰り返しになりますが、「放送」と「オン・デマンド」の違いとは、従来からのテレビやラジオの“放送”が、特に放送日時(視聴タイミング(注2))に関して、番組の送り手である放送局側に主導権が有ったのに対して、“オン・デマンド”の場合はどの番組を、いつ(から)見るかということは視聴者の指先一つにかかっているということです。テレビを見る」という行為の主導権が、放送局から視聴者側に移ったと言えるでしょう。
(注2) 2008年10月14日 追記
 
 
8.「地デジ」移行は国策、「IPテレビ」普及は民間努力で
 
 6月に任意団体としての「(旧)IPTVフォーラム」からIPTVの技術的な共通仕様案が発表され、さらに規格団体としての「(新)IPTVフォーラム」が発足したことにより、IPテレビ普及へ向けての前途に視野が開けて来たような気がします。
 
  MS Hiper-V、IPTVフォーラムなど-CNET Japanニュースから(IT屋もりたの今時パソコン日記)
  ・デジタルサイネージとIPTV(2) - IMC Tokyo 2008/Interop Tokyo 2008から(IT屋もりたの今時パソコン日記)

 
 
 ここで、このシリーズの第1回目の冒頭で触れた「地デジ」への完全移行の話に立ち戻りたいと思いますます。昨日は「地デジ完全移行まであと3年」ということで、各地でイベントが催されたようです。中でも「地上デジタル放送国民運動推進本部」の主催で東京・元赤坂で開催されたイベントは、午前11時からNHK総合テレビで生中継されました。3年後の2011年7月24日までに「地デジ」への完全移行達成に弾みをつけるためのイベントで、草彅剛さんと島津有理子アナウンサーが司会・進行役を務め、デジタルに移行せずアナログのまま3年後の7月24日を迎えた世帯では、下(右)に示したような青い表示がテレビの画面いっぱいに表示されてしまうことなどが紹介されていました(下記の画像は、NHK総合テレビの放送映像より)。
「地デジ完全移行」をジャスト3年後に控えた昨日(7月24日)、東京・元赤坂で開催された「地上デジタル放送国民運動推進本部」の初会合の模様「地デジ完全移行」が敢行される3年後の2011年7月24日、アナログテレビはご覧のような状態に

 また昨日からNHKの地上波チャンネルの番組には画面右上に「アナログ」という文字が表示されるようになりました。“示威運動”にも似て半ば脅迫じみたアクションに違和感のみならず、一種の恐怖のようなものを感じるのは私だけでしょうか?この他、生活保護世帯には地デジチューナーを直接支給するなど、「地デジ完全移行」キャンペーンは、意気込みはもとより予算的にも国を挙げての政策、まさに国策そのものなのです。
 
  生活保護世帯に「現物」支給-地デジ移行対策として(IT屋もりたの今時パソコン日記)
 
 
 翻って「IPテレビ」に目を向けると、民間事業者の献身的(普及次第で結果的に利益は自分たちにもどってくるとはいえ)な努力によって共通仕様策定にまで漕ぎ付け、さらにこれから広報活動などIPTVの普及に向けて活動を続けていくという段階です。もちろん今年3月「IPTV特別委員会」設置など総務省によるバックアップがあることも承知していますが、残念ながら両者間に雲泥の差があることは否めません。
 
 
9.「アナログ」から「デジタル」に移行する真のメリットは何か
 
 ところで、地上波テレビ放送がアナログからデジタルに変わっただけでは、視聴者側から見れば何も変わったことにはなりません。相変わらず今までと同じ放送事業者(NHKと民放数社)の番組が、見れるだけです。
 
 アナログからデジタルに変わるメリットは、高画質・高音質の映像や、映像以外の情報提供、双方向性を生かした番組の提供などとアナウンスされています(総務省:地上デジタルテレビ放送のご案内 - なぜデジタルなの?)。もちろん真(第一)の目的が“電波の有効利用”にあることは、上記の総務省のページでも明らかです。しかし、それだけの理由で国民全体にテレビの買換え等「地デジへの移行」を促す力(動機付け)になるのか、はなはだ疑問です。これらはいずれも政府(上から)の目線で考えられた“理由”に過ぎないからです。
 
 
 それではわれわれ国民の側から見て、わざわざテレビの買い換え(買い増し)を促すだけの強い動機、地デジ移行へのメリットとはいったい何なのでしょうか?結論としては「IPテレビ」であると私は思っています。
 
 話は横道にそれますが、“生活保護世帯向けに政府が配布する(そのために今後開発を進める)という5,000円程度のチューナー”の仕様が気になっています。現在市販されているデジタルテレビやDVDまたはBlu-rayレコーダーには、「地デジ」だけでなく、「BSデジタル」や「CSデジタル」チューナーも内蔵されています。一方、デジタルチューナーの価格は最低でも1万数千円程度はします(「地デジ専用チューナー」の場合)。「地デジ」「BSデジタル」「CSデジタル」3波とも受信可能の場合は2万円程度からになります。「地デジ」しか受信できないのであれば、国策としてアナログからデジタルへの完全移行を決定した今回の政策は、国民側から見れば何の意味もないことになります。おそらく上記は私の杞憂に終る(3波とも受信可能な5,000程度のチューナーが開発・配布される)のではないかと思っています。
 
 
10.2011年に向けて、「IPテレビ」の普及に期待したい
 
 このシリーズの第1回目でも申しましたが、現在家庭内に何らかの形でデジタルテレビ放送を受信できる機器を保有している世帯の割合(地デジ世帯普及率)は5割にも達していません。あと3年間で、残り半分の世帯もデジタルに移行することになります。断定的な言い方をしたのは、今回の「地デジ完全移行」をキッカケに、テレビを見ること(保有すること)をやめる世帯はほとんど無いと予想するためです。
 
 今回の記事でも申しましたが、問題は移行の“実態”です。国民の多くが“しぶしぶ”移行するようでは、後になって“ひずみ”が現れてくるでしょう。繰り返しになりますが「地デジ移行」への強いインセンティブ(動機付け)が必要なのですそしてその最有力候補は「IPテレビ」であることは、言うまでもありません。
 
 
 私観では有りますが、今般のIPTV共通仕様案の発表を受けて、既に「IPTVサービス」を提供している事業者も、それぞれのサービスで使用する機器の仕様を、共通仕様へ準拠するよう事業戦略の変更に踏み切るのではないかと思っています(「ひかりTV」は、IPTV共通仕様への準拠を、既に表明したと記憶しています。他の事業者の対応動向については存じておりませんが、筆者の情報収集能力は非常に低いため、あるいは既に対応を表明されている事業者様があっても見逃しているやもしれません)。
 
 また、「IPテレビ」ではありませんが、Gyao(Gyao NEXTではなく)やYahoo!動画といったパソコン向け映像配信サービスを提供している事業者からも、IPTV端末製造事業者(家電メーカー等)との間で何らかの形で提携を模索する動きが、3年後に向けて浮上してくる可能性を否定できません。
 
 最も肝心なのは、コンテンツです。今までの「テレビ」向けとは違った、楽しくためになるコンテンツを如何にして提示できるか否かが、「IPTV」普及のカギではないかと思います。必ずしも新しいコンテンツである必要は無く、過去数十年間に放送された膨大な番組の中で、多くの人がもう一度みたいと思っているものがたくさんあることは、昨今の「昭和ブーム」を見れば明らかです。但し、提供の仕方を従来からの“放送”というスタイルではなく、“オン・デマンド”にすればよいのです。昔食べた懐かしい料理も、お皿とか、出し方を工夫するだけで、現代風の美味しい料理に変わるのです。
 
 
 以上のような施策によって、現在は限りなくゼロに近い“IPTV世帯普及率”が3年後にどの程度まで増加しているか、まったく予想がつきません。10軒に1軒にも届かないのか、半分以上の世帯でIPTVを見ている状況か、それともその中間(10軒中、2~4軒程度)か。
 
 
 最後にどうしても言っておきたいことを、もう一度繰り返します。現在5割弱という状況の“地デジ世帯普及率”を、3年後に100%にするという国を挙げての“地デジ完全移行”キャンペーン。推進団体名称の中にまで踊っている“国民運動”という文字も、政府の意気込みだけが目立ち、空回りしそうな気配だけが伝わってきます。真に国民の間に浸透し受け入れられるためには、その施策の中に国民の側に立った目線が必要なのではないでしょうか。
 
 そのためには地デジに移行するための“動機付け”が必要です。そしてその最有力候補は「IPTV」であると思います。「地上デジタル放送国民運動推進本部」の皆さん、“地デジ”移行推進策の中に「IPTV」普及を重要施策として採用することをご提案いたします
 
 
 国策としての「地デジへの移行推進(注3)」と、民間主導の「IPテレビの普及促進(注3)」、これらは「IPマルチキャスト放送」という技術を真ん中に挟んで、表裏一体の関係にあるのです。
(注3) 上記の文章を一部修正しました。「地デジ移行」 → 「地デジへの移行推進」、「IPテレビ」 → 「IPテレビの普及促進」(2008年10月14日 修正

 
 今回のエントリーで1,000回目となりました。ついに4桁です。ブログを開始した時は、4桁は想像しませんでした。
 
 1回目のエントリー
  ・皆様、はじめまして。「IT屋もりた」と申します。(IT屋もりたの今時パソコン日記)

 
 そして、900回目のエントリー
  ・NHKオンデマンド、月額1500円程度の見通しか?(IT屋もりたの今時パソコン日記)

 
 長期的に本業(パソコン、IT全般)から離れた話題が続いています。今後は出来るだけ本業に関する話題取り上げるよう努力してまいる所存でございます。引き続きお読みいただければ幸いです。
 
 
--- 関連情報 ---
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(2) デジタルサイネージとIPTV(2) - IMC Tokyo 2008/Interop Tokyo 2008から 2008年06月15日 IT屋もりたの今時パソコン日記
(3) 生活保護世帯に「現物」支給-地デジ移行対策として 2008年06月24日 IT屋もりたの今時パソコン日記
(4) MS Hiper-V、IPTVフォーラムなど-CNET Japanニュースから 2008年06月26日 IT屋もりたの今時パソコン日記
(5) IPTV(IPテレビ)は、地デジ移行の裏返し(1) 2008年07月17日 IT屋もりたの今時パソコン日記
(6) IPTV(IPテレビ)は、地デジ移行の裏返し(2) 2008年07月19日 IT屋もりたの今時パソコン日記

投稿者 もりた : 2008年07月25日 06:03 このエントリーを含むはてなブックマーク この記事をクリップ!

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